『懐が深い』

タイトル:「懐が深い」というお話し

私は最近、地域の温泉(共同浴場)に行くのが仕事終わりの日課です。 実は、今の場所に落ち着くまでは、温泉といえば家族風呂ばかりを利用していました。

地元の皆さんが集まる共同浴場は、最初は「アウェイ感」がたっぷりで、慣れないうちは黙って入っては、どこか壁のようなものを感じていたのが本音です。

しかし、通ううちに、周りの皆さんのある素敵な行動に気づきました。 皆さん、お風呂に入ってくるときは「こんにちは」、帰るときは「さようなら」と、ごく自然に、でもお互いを温かく迎える挨拶を交わし合っていたのです。

「まずは自分から変えてみよう」

そう思い、最初は小さな声で、タイミングも探り探りでしたが、勇気を出して「こんにちは」「こんばんは」と声をかけるようにしてみました。

すると、少しずつ変化が起きました。 今では、皆さんから温かい挨拶が返ってくるだけでなく、「今日は早いね!」「久しぶりだね!」と声をかけていただけるようになったのです。

私はいつも、体を洗ってお湯に浸かり、心の中で100数えたらサッとあがる、どちらかといえば「カラスの行水」のような早風呂です。

それでも、お風呂上がりに「さようなら」と告げると、小さく手を振り返してくれる年上の大先輩がいらっしゃいます。

ある日、その大先輩とお風呂で隣同士になりました。 私が体を洗っていると、その方が「背中を流そかい?」と優しく声をかけてくださったのです。

あまりの温かいお申し出に恐縮しつつ、私は思わず、 「とんでもないです!人生の大先輩にそんなことをさせたら、バチが当たって背中が腫れます!」 と、ユーモアを交えて丁寧にお断りしました。大先輩は優しく笑ってくださいました。

日々、色々な場所で色々な人間関係がありますが、この温泉の人生の先輩たちと接していると、少し言葉のニュアンスが崩れたくらいではびくともしない、本物の「懐の深さ」を感じます。

私はプライベートな話には踏み込まないし、聞きもしませんが、「こんにちは」には「こんにちは」と「さようなら」には「さようなら」とかえして貰えるのがうれしいというか。

心地よい挨拶だけで、お互いにリラックスできる温かい空間にしてしまう。 そんな大先輩たちの器の大きさに触れることが私にとっては、うれしいことです。